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2013.02.03

アベノミクス(第二次安倍内閣の経済政策)は日本を救うのか

昨年11月16日の衆議院解散から第二次安倍内閣の発足を挟んでここ2ヶ月半の円安と株高の勢いが止まらない。
ちょうど1ヶ月前に書いた「ミセス渡辺が熊に襲われるとき」の中で「週刊誌の見出しに『アベノミクスに乗り遅れるな!』という見出しが躍ったら一旦ロング(円安)ポジションを全部閉じるか、ショート(円高)ポジションで保険を掛けよう。」と書いた私はとんだピエロである。
ちなみに、この期間における日経平均株価は9,024.16円から11,191.34円と2,167.18円高、東証株価指数(TOPIX)は751.34ポイントから942.65ポイントと191.31ポイント高になり、それぞれ約25%上昇した。
一方の円の為替相場は、対米ドルレートが80.8円から92.8円へ、対ユーロに至っては103.5円から126.6円と20円以上も円安に振れた。
日本株やFX投資をやっている人にとっては久々にやってきた春爛漫といった季節到来である。

これらのことで今後は大企業を中心に企業業績が好転するのではないかという期待から、市場にはアベノミクスへの期待が膨らみ続けている。
特に経済人には安倍首相に期待している人も多く、これまでにもニューズウイーク日本版に多くの寄稿をしている知日派投資家のピーター・タスカ(Peter Tasker)は、1月22日号で「世界に愛されるアベノミクス」として、安倍首相と麻生財務相に断固たる決意と運があれば、長らく続いた日本のデフレ不況に終止符を打てるのではないか、と書いている。
ちなみに彼は2004年3月31日号で日本の景気回復を望まない人々(PDF)ということを書いていて、この中で「景気回復が本格的に軌道に乗れば、エリート官僚は痛いところをつつかれかねない。ブッシュやグリーンスパンの政策を、日本はなぜもっと早く採用しなかったのか。失われた10年は、官僚の無能と無責任が招いた人災ではないのか・・・。」と述べているのを忘れてはならない。
歴史は繰り返す。
このアベノミクスが狡猾な財務官僚による消費税増税法(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律)の景気条項(衆議院修正後の附則第18条)を満たすための布石に過ぎなかったとき、安倍内閣への期待は一気に失望に変わるだろう。

社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律-附則第18条
1消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3パーセント程度かつ実質の経済成長率で2パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。
2税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、我が国経済の需要と供給の状況、消費税率の引上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する。
3この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第2条及び第3条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前二項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。

一方で安倍首相が提唱するインフレターゲット政策には必然的に物価高をもたらすリスクがあり、賃上げに消極的な経団連の発言と相俟って不安を隠せない人も多くなっている。
その典型的な記事が、1月25日付の英字紙フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)のWages in way of Abe's war on deflation(「アベノミクス」の物価上昇計画を脅かす賃金下落)だ。
事実、時事ドットコムで掲載されている平均月額給与の推移を見る限り、大方の日本のサラリーマンの給与収入は減少の一途を辿っていることがわかる。
これでインフレによる物価高が直撃すれば、生活状況は一気に悪化することは火を見るよりも明らかだ。
だから私は「今日から新しい人生を歩みたい人のための投資入門講座」というエッセイでもって貴方がたに働くだけの人生を変えようと言っている。
もっと悲惨になることが危ぶまれているのは生活保護受給者で、闇金の餌食になる者も増えるだろうということが日刊SPAには書かれている。(日刊SPA-安倍政権に反社勢力が大喜び-安倍政権による生活保護費削減をヤミ金業者が大歓迎
もはや彼らには神のご加護があることを祈るだけだ。

正直なところ、私は第一次安倍内閣が発足した当時、彼の政策を酷評するコラムを書いた。(2006年9月28日-安倍晋三首相の政策の本質
このときと今とで何が変わったのかと聞かれれば、野党に対する期待感だ。
当時は自民党に対抗し得る政党を育て、健全な議会制民主主義が生まれればいいという思いがあった。
それが成就したと思われたのが2009年9月の鳩山政権発足(2009年9月2日-民主党怒涛の308議席、ついに政権交代)だったのだが、その思いはわずか数ヶ月で失望と怒りに変わった。
もはや売国政党とも言われる民主党の自滅で、私が生きている間にまともな議会制民主主義が生まれる期待はなくなったと思えた。
そうであれば、再登板した安倍首相にある種の期待をするほかはなくなった。
その期待とは、元財務官僚で第一次安倍内閣のブレーン的存在であった高橋洋一氏が言う、安倍首相の正義感だ。
「まっとうな政策には首を縦に振り、立場も顧みず、実施しようとする純粋な心を持っている。」という高橋氏の言葉が安倍首相の中に未だに生きていることを心の底から願いたい。

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Wages in way of Abe's war on deflation
(Financial Times By Ben McLannahan January 25, 2013)
「アベノミクス」の物価上昇計画を脅かす賃金下落
(2013.1.29 Japan Business Press)

At 5pm on a Thursday evening, the Nakameguro branch of Don Quijote is starting to fill up. The gaudy, multi-storeyed discount store - one of a nationwide chain - is an odd fit amid the boutiques and restaurants of this bohemian Tokyo suburb.

木曜日午後5時の東京・中目黒。全国展開しているディスカウントストアチェーン、ドン・キホーテの中目黒本店は客でいっぱいになり始めている。この界隈にはレストランやブティックが立ち並び自由な雰囲気も漂うだけに、ビルの複数階を占めているこの店のけばけばしさは妙な感じもする。

But in deflation-dogged Japan, where salaries and bonuses keep falling, the company known affectionately as "Donki" has been a big winner - one of a handful of listed companies to have increased sales and profits for 20 years in a row.

しかし、しつこいデフレにとりつかれて給料もボーナスも減る一方の日本において、「ドンキ」という愛称で親しまれるこの会社は、掛け値なしの勝ち組である。何しろ同社は、20年連続で増収増益を果たしている数少ない上場企業の1つなのだ。

It is here that "Abenomics"is being put to the test. Shinzo Abe, Japan's new prime minister, has vowed to rid the country of deflation so that companies and households are more likely to spend cash than hoard it.

「アベノミクス」の真価はここで試されることになる。日本の新首相・安倍晋三氏は、企業や家計がため込んできた現金を使う可能性が高まるように、この国をデフレから脱却させると約束している。

So far, Mr Abe has focused on fiscal stimulus and monetary easing, with details of another prong of his plan - structural reforms and deregulation - expected by the summer.

今のところ、安倍氏は財政支出を伴う景気刺激策と金融緩和に力を入れている。同氏の計画にある「3本の矢」の残りの1本-構造改革と規制緩和-の詳細は今年の夏までに打ち出される見通しだ。

"Without inflationary expectations, jobs will not be created and investment will not occur," Mr Abe told the first meeting of his economic task force this month. "We have had over 10 years of deflation, and now we are going to do something different."

「(デフレ期待から・・・)インフレ期待に変わらない限り、雇用は生まれないし、投資も出てこない。」安倍氏は今月、自身の経済タスクフォースである経済財政諮問会議の第1回会合でこう述べた。「10年間ずっとデフレが続いてきたのだから、そうではない(伝統的ではない)手法を今度は取る。」

Data released on Friday showing a 0.2 per cent fall in Japan's core consumer price index in December from a year earlier - the sixth drop of the past seven months - underlined the scale of that challenge.

25日に発表された昨年12月の全国の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数、コアCPI)は前年同月比で0.2%下落し、過去7カ月間で6度目の前年比マイナスとなった。安倍氏が挑む課題の大きさを際立たせる数字だ。

Meanwhile, in Donki's maze-like aisles stacked high with noodles and sauces, Mr Abe's promise of 2 per cent inflation sounds more like a threat to Sakura Ikeda, a 36-year-old housewife.

一方、麺やソースがうずたかく積まれて迷路の様相を呈しているドンキの売り場でイケダ・サクラさん(36歳・主婦)に話を聞いたところ、安倍首相が公約する2%のインフレはどちらかと言えば怖い感じがするという。

"If wages rise too, then inflation is a good thing," she says. "But I can't see that happening. There is no sense whatsoever that the economy is improving."

「お給料も一緒に上がってくれるんなら、まあインフレはいいことです・・・でも、そうなってくれるとは思えませんよね。景気が良くなっているという感じはありません」

That is the snag for Mr Abe. Years of deflation and low growth have cemented expectations of more of the same. In a country where the working-age population has fallen about 8 per cent since 1995, companies have been reluctant to pass on higher input costs by lifting prices, for fear of losing market share.

これこそが安倍氏が直面している障害物だ。デフレと低成長が何年も続いた結果、人々は同じ状況が今後も続くという見方を強めている。またこの国では生産年齢人口が1995年に比べて約8%減少しており、市場シェアの低下を恐れる企業は投入コストの増加を価格に転嫁することに消極的だ。

As tough Japanese labour laws make it almost impossible to fire workers, the result has been squeezed salaries. That, in turn, has reinforced the cycle of sluggish demand that has nudged Japan into its third recession in five years.

日本では労働関係の法律が厳しく、従業員を解雇することはほとんど不可能であるため、代わりに給与が引き下げられている。そのせいで需要がさらに低迷するという循環が強まっており、日本はここ5年間で3度目の景気後退に陥っている。

Lower pay in itself has not been too hard on consumers, as total cash incomes have fallen by less than the drop in the broadest measure of the price of goods and services since the mid-1990s.

給与の減少はこれまでのところ、消費者にとってそれほど過酷なものにはなっていない。1990年代半ば以降の現金給与総額の減少率は、財・サービスを最も幅広く網羅した物価指数の下落率よりも小さなものにとどまっている。

Still, that effective rise in purchasing power has failed to spur consumption because employees fear that their next pay packet will be even lighter than the last. As a result, many automatically associate higher prices with lower standards of living.

しかし、その意味で購買力は実質的に向上しているものの、消費を喚起するには至っていない。自分の給与はこれからさらに減るのではないか、という不安感があるからだ。その結果、国民の多くは、物価が上昇すれば生活水準は低下すると考えている。

More than 80 per cent of respondents in a recent Bank of Japan survey who noticed a rise in prices last spring - driven largely by fuel costs - said it was a bad thing.

日銀が一般の国民を対象に行っているアンケートによれば、昨年春の(燃料価格上昇による)物価上昇を認識した回答者の80%以上は、物価の上昇はどちらかと言えば困ったことだと答えている。

On Friday, Bank of Japan governor Masaaki Shirakawa - who has embraced Mr Abe's target with no great enthusiasm - made the point that even during Japan's bubble years in the latter half of the 1980s, inflation averaged just 1.3 per cent.

安倍氏のインフレ目標を渋々受け入れた日銀総裁の白川方明氏は25日、1980年代後半のバブル期においてもインフレ率は平均で1.3%にすぎなかったと指摘した。

"Regardless of gender, age or occupation, the 'price stability' that most Japanese want is the sort where the economy improves in a sustainable and balanced way, with employment, salaries and corporate profits rising, and mild price increases following as a result," he said.

「性別、年齢、職業を問わず、多くの国民が望んでいる『物価の安定』とは、雇用の増加と賃金の上昇、企業収益の増加などを伴いながら経済がバランスよく持続的に改善し、その結果として物価の緩やかな上昇が実現する状態だ」と白川氏は述べた。

This week Yajiuma TV, a popular breakfast show, ran a segment on strategies to "cope" with 2 per cent inflation, should the government achieve it. One suggestion was to stock up now on non-perishables.

早朝に放送されている人気情報番組「やじうまテレビ!」は先日、2%のインフレに「対処する」戦略を特集した。提案された対策の中には、保存食を買いだめするというものもあった。

Mr Abe has stressed that higher prices must be accompanied by better wages. His cabinet has floated the idea of offering tax cuts to companies that boost pay and bonuses.

物価の上昇には賃金の上昇が伴わなければならない、と安倍氏は強調している。内閣からは、給与やボーナスを引き上げた企業を対象に減税を行うという構想も浮上している。

For now, though, the outlook is not encouraging. Keidanren, Japan's most powerful business lobby group, claims that there is "no room" to raise pay in the traditional round of negotiations that will take place this spring, blaming the weak economy.

しかし、今のところ見通しはあまり芳しくない。企業のロビー団体である経団連は今年の春に行われる伝統的な労使交渉「春闘」で、「ベースアップ」を実施する「余地はない」と断言している。景気が悪いというのがその理由だ。

In discussions for the next fiscal year, the management side "will give priority to employers' survival, and the maintenance and stability of employment", Keidanren said this week.

経団連は先日、企業の経営側は来年度についての議論で「企業の存続と従業員の雇用の維持・安定を最優先する」と語った。

However, it may not be long before the double-digit drop in the yen against the US dollar touched off by Mr Abe's recent talk of monetary easing starts to trigger a rise of gas and electricity prices, notes Satoshi Okagawa, an analyst at SMBC.

しかし三井住友銀行のアナリスト、岡川聡氏によれば、安倍氏の金融緩和発言を機に進んだ2ケタの円安・ドル高がガス・電力料金上昇の引き金になり始める日は近いかもしれない。

If it takes until the next round of pay negotiations in spring 2014 before wages can begin to rise to compensate for those rising prices, "costs could go up ahead of income", he says, crimping consumption further.

物価の上昇を相殺する賃金上昇が実現する可能性があるのは2014年の春闘以降だということになれば、「収入より先に生活費が上昇する恐れがあり」、そうなれば消費をさらに抑制するだろうと岡川氏は述べている。

Back at Donki, founder and chairman Takao Yasuda says he welcomes the prospect of inflation, describing it as a "southern wind" to boost demand. "Inflation creates sensitivity to prices," says Mr Yasuda. "People feel like they have to hurry up and buy things, before they get more expensive."

ドン・キホーテの創業者である安田隆夫会長は、インフレになるとの見通しは需要を喚起する「南風」だと表現し、これを歓迎すると話している。「インフレになれば物価に対する感度が高まる・・・そうすればみんな、値上がりする前に急いでモノを買わなきゃいけないという感じになる」そうだ。

But down on the shop floor, the feelings are different. "I heard about [the 2 per cent target] on the news, and I don't really understand it," says 72-year-old Chieko Tsujii. "I'm worried, though, because I'm a pensioner. My income is not going to go up."

しかし、ドンキの売り場にはそれとは異なる雰囲気が漂っている。「(2%のインフレ目標のことは)ニュースで聞いたけど、どういうことだかよく分かりません。」ツジイ・チエコさん(72歳)はこう話す。「でも、心配は心配ですね。私は年金暮らしで、収入はもう増えませんから。」

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世界に愛されるアベノミクス
(2013.1.22 Newsweek Japan by ピーター・タスカ)

■日本経済-投資家は熱視線を送るが圧力をはね返し成長戦略を実行に移せるかが課題だ

自民党がいない日本なんて、アルプスのないスイスか、キース・リチャーズの抜けたローリング・ストーンズと同じくらいあり得ない。
最近のニュースを見る限り、そんな例えも大げさではないように思える。

かつて中曽根康弘元首相は結党したての民主党をソフトクリームに例えたが、まさに炎天下のソフトクリームのように民主党政権は溶け落ちてしまった。
今や残るのは、路上に垂れ落ちたクリームの白い汚れのみ。
一方、自民党はずっとそこに存在していたかのように、再び政権の座に返り咲いた。
だが「失われた20年」を生み出し、2009年の総選挙で有権者に明確に拒絶されたのは、まさにこの自民党ではなかったか。
「持って生まれた性質は変えられない」という言葉にも例外がある、ということだろうか。

確かに自民党はそんな「例外」なのかもしれない。
ただし、すべては安倍晋三首相が妥協を求める圧力をはね返し、選挙中に約束した「スピード感のある成長戦略」を実行に移せるかどうかに懸かっている。
成功すれば、安倍は日本をデフレから脱却させ、国際的な存在感を取り戻した男として歴史に名を刻むことになる。
逆に官僚の操り人形になってしまったら、自民党の行く末には、民主党と並んで路上のゴミとなる運命が待ち受けている。

日本の政治家にとって、自分の名前に「ノミクス」という接尾辞が付けられるのは異例の栄誉だ。
「ノダノミクス」や「コイズミノミクス」という表現は生まれなかったのに、安倍の場合は首相就任前から「アベノミクス」が世界中の投資家から熱烈に支持された。
高い期待を反映して、衆議院選挙の実施が決まって以降、急激に円安が進み、日経平均は20%近く上昇した。
安倍は文字どおり、指一本動かすことなく時価総額でおよそ50兆円の富を生み出したわけだ。

安倍の思想や手腕が広く知られていることを考えると、この歓迎ムードはなおさら意外に感じられる。
06~07年の首相在任中には安倍はろくな業績を挙げておらず、新たな経済政策にも興味を示さなかった。
当時と今で何が変わったのだろう。
なぜ前回、国の舵取りに失敗した安倍が、今回は成功するといえるのか。

実際には、日本を取り巻く状況すべてが変わっている。
そして安倍は、そのことに気が付いている数少ない政治家の1人だ。
08年秋のリーマン・ショック以前のグローバル経済は年率4~5%で着実な成長を続け、インフレ圧力もほぼなかった。
BRICS諸国が急成長し、富裕国の生活水準も高まるというグローバリゼーションの黄金時代を謳歌していた。

■経済危機後の「新基準」

日本経済は当時も脆弱だったが、大手メーカーは好調な海外需要の恩恵を受け、円の対ドル相場も100~120円で落ち着いていた。
当時の小泉純一郎首相はメディアを巧みに利用し、サッチャー流の改革で日本経済を再生させた立役者として国内外で喝采を浴びた。

残念ながら、すべては幻想だった。
アメリカの住宅バブルやユーロ加盟国間の相違など、深刻な格差と社会のゆがみは蓄積される一方。
08年の経済危機でそれらのひずみが一気に表面化すると、世界は1930年代の世界恐慌の再来を思わせるような大混乱に陥った。

アメリカのサブプライム危機と無関係だった日本も、07年以降、名目GDPが8%失われるという深刻なダメージを負った。
小泉改革のおかげで日本経済の基盤が強化されたという評価は明確に否定され、日本はむしろ、かつてないほど外的要因の打撃を受けやすくなつてしまった。
長年続くデフレによって、企業の国内での利益率は限りなく縮小した。
終身雇用が減って非正規雇用が増えたため、若い世代の購買能力も失われた。

経済危機以後の世界は「新標準」に適応しつつある。
先進国は低成長にとどまり、BRICS諸国にも急ブレーキがかかったまま。
消費者は借金返済に忙しく、企業は投資するよりカネをため込もうとする。
日用品の物価は上昇せず、多くの国で不動産価格が急落している-。

この新標準はいつまで続くのか。
答えは誰にも分からないが、悲惨な前例として世界が注目するのが日本だ。
各国の指導者は、低成長とデフレに長らく苦しめられる「日本化」を避ける方法を必死で模索している。
インフレもデフレも金融問題だから、対応策の主眼は金融政策に置かれてきた。
アメリカでは、ベン・バーナンキ議長率いるFRB(米連邦準備理事会)が極めて迅速かつ積極的に対策に乗り出し、量的緩和策を何度も繰り返した。

この方針は当初から激しい論争を引き起こした。
保守派は、ドルの価値を下げる無責任な政策だと激しく批判。
テキサス州知事で共和党の大統領選候補の1人だったリック・ペリーは、バーナンキの政策を「裏切り」と呼び、テキサス州に来たら「痛い目に遭う」と警告した。
だが、こうした批判は間違っていた。
彼らが警告したハイパーインフレが起きることはなく、株価は2倍に伸びた。
ドル安のおかげで輸出企業は好調を取り戻し、インフレ懸念は経済危機以前の水準に戻った。
アメリカ経済は今も絶好調とはいえないものの、ヨーロッパや日本に比べればずっとましな状態を保っている。

■世界でも珍しい日銀の政策

各国の中央銀行もバーナンキ路線を踏襲した。
イギリスの中央銀行であるイングランド銀行は、日本の金融行政に詳しいアメリカ人エコノミスト、アダム・ポーゼンを金融政策委員会のメンバーに任命。
日本の失敗を熟知しているポーゼンは委員会で、積極的な量的緩和策を行うよう訴えた。
だがイギリスでも、この政策は論争の的となった。
委員会の他のメンバーはインフレを懸念し、量的媛和をしなくてもイギリス経済はいずれ回復すると主張した。

結局、正しいのはポーゼンのほうだった。
イギリス経済の回復ぶりは予想をはるかに下回り、インフレが加速することもなかった。
欧州中央銀行(ECB)は、スペインやギリシャなど財政危機に陥った国の国債を無制限に購入してユーロ圏の崩壊を防いだ。
さらにスイス国立銀行(中央銀行)も、従来の保守的な政策を180度転換して、為替相場に無制限介入することでフラン高の進行と輸出業への打撃を食い止めた。

こうした各国の措置に比べると、日本はほとんど何もしてこなかった。
過去10年以上にわたり、ほぼすべての政権がデフレからの脱却を政策課題に掲げてきたが、何の成果も挙げられなかった。
理由は簡単だ。
日本銀行は97年の日銀法で独立性を確保したものの、実質的に責任がない。

イングランド銀行とECBは明確なインフレターゲット(物価上昇率の目標)を設定している。
FRBも物価の安定と雇用の最大化が義務付けられているし、昨年12月には失業率目標という新たな目標を自ら導入した。
世界でも珍しいことに、日銀は自らの目標設定とパフォーマンス評価の両方をやっている。
「われわれは素晴らしい仕事をしている」と、自己評価が甘くなっても不思議はない。
問題は、そんなふうに思っている人間が外部にほとんどいないことだ。
経済学の重鎮、故ミルトン・フリードマンは98年、日本経済の問題は日銀の「10年にわたる無能な金融政策」のせいだと論じている。
フリードマンは06年に死去したが、今も生きていたとしたら何と言ったか想像するのは難しくない。

デフレがあまりにも長期間放置されてきたため、それに慣れてしまった日本の消費者や企業、投督家の態度を変えるのは容易ではないだろう。
識者たちは最近、消費者や企業のマインドを切り替えるには、政府がパワフルなメッセージを発信する必要があると指摘している。
その点、主要ポストの人事は強力なメッセージになる。
図らずも白川方明・日銀総裁は4月に任期が満了する。
次期総裁に任命されるのが元官僚なら、古い体質が変わっていないというサインになるし、ポーゼンのような新しい考えの持ち主が任命されれば、安倍政権は脱デフレに本気で取り組むつもりだという強力なサインになる。

■国債発行の絶好の機会

日本が大きな間違いを犯してきたのは金融政策だけではない。
もともと需要が弱い国なのに、消費税を引き上げれば需要が冷え込むのは間違いない。
税収を増やしたいなら、デフレによる貨幣価値の上昇で、企業や個人に見えない利益をもたらしている貯蓄に課税するべきだ。

民主党政権時代、財務省は「増税しなければ日本は次のギリシャになる」と党指導部を言いくるめたらしい。
だが現在、通貨主権(通貨発行権)を持つ国で債務危機に陥っている国は1つもない。
ギリシャやスペインは、単一通貨ユーロを導入した時点で通貨主権を放棄した。
これらの国が陥っている現状は、独自の金融政策を取るすべもなく財政破碇するしかなかった北海道の夕張市と同じだ。

これに対して、通貨供給量を調整できる国は現在、途上国か先進国かを問わず、また財政赤字があるか否かを問わず、史上最低水準のコストで借金ができる。
なかでも日本の長期金利は最も低い。
つまり日本は、好条件で国債を発行するまたとないチャンスに遭遇している。
財務省はメキシコのように100年債、あるいはかつてのイギリスのように永久債(コンソル債)の発行を検討してもいいのではないか。

日本は既に莫大な公的債務を抱えており、これ以上の借金は危険だという批判があるが、その批判はせいぜい半分正しいという程度だ。
公的債務と貯蓄の関係を考えてみるといい。
銀行や郵便局は顧客から預かった資金を運用するが、それは通常、企業への貸し出しという形を取る。
ところが頼みの企業が、需要低迷や景気動向が不安だから借入金を増やしたくないと言いだしたら、銀行は政府に金を貸すしかない。

こうして日本の莫大な公的債務は、同じくらい莫大な貯蓄によって均衡が保たれている。
いや、均衡が保たれている以上だ。
日本にはGDP比50%超の対外純資産があるのだ。
財政赤字を適切な水準に抑えたいなら、日本は成長重視の政策に回帰して、賃金や企業利益の拡大を促すことで税収増につなげるしかない。
97年の消費税の税率引き上げが散々な結果に終わったように、ないところからカネは搾り取れない。

■悲観的な見方が常態に

公共事業の縮小路線にも終止符を打つべきだ。
日本は防災対策を強化し、主要機能を地方に分散し、東京オリンピック前に建設されたインフラを補強する必要がある。
国債の格付けが下がることを恐れて公共事業を控え、トンネルが崩落したり、耐震構造が十分でない建物を放置するなんてばかげている。

安倍には「成長戦略」がなく、「インフラ投資は利益誘導政治につながる」との批判もある。
だがいわゆる「成長戦略」は、非経済的なプロジェクトへの投資につながることも多い。
近年で最悪の例は、ばかばかしく高い再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度だろう。
政府は経済性を無視したイメージ先行のプロジェクトを優遇するのではなく、企業部門が自力で成長できる経済環境の整備に集中するべきだ。
それはデフレに終止符を打ち、通貨競争力を高め、消費税の税率引き上げをやめ、資産市場を活性化し、国民に自信を持たせることだ。

日本ではあまりにも長い間、新しい試みに対してネガティブな批判をするのが「冷静」な態度と見られてきた。
その結果、政策当局者もオピニオンリーダーも腰が重くなり、悲観論に満ちた経済の停滞が常態化した。
ローリング・ストーンズ同様、自民党はしぶとく生き延びてきた。
そのエネルギーレベルは、60年代の黄金時代に比べればずっと低いが、民主党に比べればはるかにましだ。
だから安倍と麻生太郎財務相にもう一度だけ、大舞台で仕事をするチャンスを与えてみようではないか。
断固たる決意と運があれば、彼らは日本に「サティスファクション(満足感)」を与えられるかもしれない。

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火中の栗を拾った総理と幹事長
(高橋洋一著:「さらば財務省!政権交代を嗤う官僚たちとの訣別」より)

われわれの案に賛同してくれた安倍総理と中川幹事長は、間を置かずして「ねんきん特別便」の発送と年金記録確認第三者委員会の設置を決めた。
ねんきん特別便の話は安倍総理が党に投げるまで出ていない。
中川幹事長の決断だった。
幹事長も、情報公開が重要だと感じておられたのだろう。
共産党も、ねんきん特別便の発送には賞賛を惜しまなかった。

私は安倍さんと中川さんの年金問題への対応は、大英断だったと思っている。
与党にとって、これは辛い選択である。
データの不備を明らかにすれば、「いい加減なデータを放置していた。俺の年金はどうしてくれるんだ」と国民は怒る。
国民の怒りを真正面から受けなければならない。

情報を公開すれば、文句が山ほど来る。
年金記録のミスは生半可な数では収まらない。
とりあえず郵送した1000万通の特別便にしても、少なくとも五%くらいの間違いがあるはずだ。
さらに段階的に送っていけば、500万人から1000万人の怒りを買う。
しかも、騒ぎは一年や二年は続く。安倍政権はおろか、その先の政権にまで累が及ぶ。
参院選を控えていた安倍さんと中川幹事長にしてみれば、なおさら、できれば避けたい方法だった。
だが、国民が怒るからこそ、早く解決しなければならないのも否定しようのない事実だった。
自民党、安倍政権への風当たりは一時的に厳しくなっても、何よりも国民の不利益を解消することが最優先である。
そう考えて、安倍さんと中川さんは、捨て身の覚悟で、あえて火中の栗を拾ったのだ。

これには提案したわれわれが驚いた。
コンテンツ・クリエータの私には政局などは関係ない。
正しいと思われる案を出したまでである。
しかし、さすがにこの案は受け入れられないだろうと読んでいた。
こんな案を採用すれば、政局でも選挙でも圧倒的に不利な立場に追い込まれる。
厚生労働省も猛反対していた。
支持率はガタ落ちになって、政権は足もとから揺らぎかねない。

だが、安倍総理は躊措なく「やろう」とおっしゃった。
安倍さんはある意味、政治家に必須の老檜さには欠ける。
だが、それを補ってあまりある正義感のようなものがある。
まっとうな政策には首を縦に振り、立場も顧みず、実施しようとする純粋な心を持っている。

当時、街頭演説に立った安倍総理が、「みなさんには払い損はさせない」と声を張り上げていたのを思い出す。
「最後の一人、一円まで」-
これは当たり前の話ではないか。

中川さんも立派だった。
中川さんの口から「選挙を抜きにしてやろうか」という言葉を聞いたときは、並々ならぬ覚悟が伝わってきた。
選挙に敗北すれば、中川さんは幹事長のポストから去らねばならない。
政治家としては大きな打撃を受ける。
中川さんも国民の利益を最優先させて、あえて茨の道を選択したのだった。

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